梅雨の季節になりました。 この時期,傘が要るかどうか,毎日の天気予報が気になります。
天気予報といえば,一昨年のテレビで,それまではミリバール(mbar)と何十年も使ってきた気圧単位の表現が,ある日突然ヘクトパスカル(hPa)という聞き慣れない言葉に替わり,面食らった記憶があります。それも今ではあまり耳障りではなくなりました。ずっとなじんできたミリバールは,もはや死語になりつつあります。
HPLCで重要な「圧力単位」も,天気予報と同じで,最近表示単位が変わりました。ご存じでしょうが,現在は MPa (メガパスカル)と言わなければなりません。
我が国の計量法が改正されたためです。
1993年5月20日(法律第51号)の計量法および,同年11月18日(政令第357号)の計量単位令により,数年の猶予期間を経て,1999年10月から施行された計量単位の表記方法が,天気予報だけでなくHPLCの世界にも影響を与えています。慣用的には従来のような
kgf/cm2 でもよいのですが,正式表記には MPa が必要となります。
現在,我が国の計量単位は,国際単位系( System International d'Unites, SI )に準拠しています。近年,日本も含めた世界48カ国からなる,国際度量衡委員会,および総会(CGPM)の議決により,SI国際文書
第7版( The International System of Units, 1998)が発行され,圧力単位 Pa (パスカル)もこの中で規定されています。
原著は以下の発行元の国際度量衡局(BIPM)にあります。
http://www.bipm.fr/enus/6_Publications/si/si-brochure.html
ちなみに圧力単位 Pa(パスカル)は,「組立単位 (SI derived unit)」といわれ,基本単位で表記するなら,以下のようになります。
1 Pa = 1 N・m-2
ところで,現在お使いのHPLCシステムの圧力表示は MPa になっているでしょうか?おそらく最近のモデルでないと
MPa の表示設定ができないと思います。ご参考までに単位換算表を以下に示します。
1 kgf/cm2 = 0.098 MPa
感覚的には現在の表示圧力の 1/10 MPa と考えれば扱いやすいと思います。
HPLCメーカーによっては独国製や米国製もありますので以下もご参考までに。
1 bar = 0.1 MPa
1 psi (pound per square inch) = 0.0069 MPa
米国の民間や各州では psi を慣習的に用いていますが,中央政府はSI単位の使用が建前となっているようです。また,barは非SI単位系として慣習的表記を容認されていますが,psi
はSI国際文書 第7版 原著のどこにも登場していません。
現在の国産HPLCの圧力表示は MPa がデフォルトになっているようですが,海外製は母国の習慣に影響されてか,標準表示を MPa にできないようです。私見ですが,これらの国も,国際度量衡委員会に加盟しているのだから,科学技術の世界だけでもSI単位系のルールを批准して欲しいところです。
「今のカラム圧力はどれくらいですか?」「xxx psi と表示していますが何キロかわかりません」。カラムユーザーとの会話が通じにくい不便さがあります。装置メーカーにはぜひ国際ルールである
MPa 表示をお願いしたいものです。
日本の事例のように,各国とも毎日の天気予報で,むりやり「気圧」や「温度」,ついでに「長さ」もSI系に変更して放送すれば,数年先には世界的に単位が簡単に統一できるのでしょうに・・・
台風の季節,毎日連呼される天気予報の「ヘクトパスカル」に違和感は少なくなくなりましたが,液クロの世界で「メガパスカル」に違和感がなくなるのは,いつになるのでしょう。
[追記(2020-09-07)]
本稿を公開してから20年近くなりますが,相変わらずHPLC装置メーカーは圧力単位表示を替える気はないようです。
そこでHPLCに役立つ「圧力換算の便利なツール」を開発しました。ご活用ください。
http://www.imtakt.com/jp/Support/Tools/PressureMain.php
(矢澤 到)