前回,企業は「生き物」と書きました。
ビジネスとは別な意味で,HPLCカラムも「生き物」だと思うことがあります。
一般に,低分子化合物分離用のODSカラムに用いるシリカは多孔質であり,1gあたり約300m2の表面積(比表面積)を有しています。シリカゲルとも呼ばれ,LC分離を支える重要な無機系高分子材料です。高分子ですから重合度が全く同じというわけにはいかず,表面積や細孔径などに若干のばらつきが発生します。さらに無機質のシリカ表面に有機質のオクタデシル基を表面処理していますから,シリカ物性のわずかな違いが充てん剤の疎水性に影響を与え,クロマトグラム上のピークの溶出位置がわずかに変動することになります。したがって,カラム間(あるいはバッチ間)の変動をいかに最小限に抑えることができるか,がカラムメーカーの実力となるわけです。
また,同一ロットのシリカであっても,全く同じ性質のカラムを作れるわけではありません。ODS充てん剤のような無機−有機ハイブリット粒子は,特性を決定づける要因がたいへん多く,要因どうしが互いに影響しあってその作用が増幅するために,バッチ間に発生するばらつきを避けることができません。そしてカラム充てん作業に伴うばらつきもあります。
カラムの製造管理はほんとうに難しいものです。 「同じように作っているのに,微妙に違う」現象を目のあたりにするにつけ,カラムがまるで「生き物」のように当事者としては感じられるのです。良い製品を安定して作るための奮闘の日々が続きます。
たいていのODSカラムは,出荷時の溶媒(アセトニトリル/水あるいメタノール/水)が封入されていますが,未使用のまま何年も保管しているうちにカラム性能が低下してしまうことがあります。これはカラム封入溶媒によりシリカや充てん剤表面の加水分解が徐々に生じるためと考えられます。特に残存シラノールの多いカラムではその傾向が高いように感じます。カラム購入後にはできるだけ早く使用することが望まれます。よく言われるように「カラムは生物(なまもの)」です。
企業活動やカラム製造時に感じる「いきもの」,またカラムの保存時の変化としての「なまもの」。同じ「生物」と書く言葉がカラムビジネスにも大きく関わっています。加えて,カラムユーザーも「生物」を対象としたライフサイエンスに関わることが多く,カラムと生物の関係は,これからもますます重要になると考えられます。
カラムは生物ですから,できるだけ「やさしく」取り扱ってください。
(矢澤 到)