最近の報道によると,今年(2001年8月)はIBM仕様のパーソナルコンピュータ(IBM−PC)がデビューして20周年にあたり,米国ではにぎやかな記念式典が催された,ということです。オフィスに欠かせないPCが登場してもう20年になるのですね。日本ではいろいろと回り道をさせられましたが,結局のところIBM−PC(および互換機)に落ち着いた経緯があります。我が国の一世を風靡したあの国産DOSマシンはいったいどこへ消えてしまったのでしょう。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)においてはデータ処理が不可欠であり,年々PCの役割が重要になっていると思います。バリデーションや電子記録,オーディットトレイルなど,業界によってはPCの機能を活用しないと仕事ができない状況も生まれつつあります。
HPLCにおけるデータ処理の歴史には,初期の「ペンレコーダ」から「インテグレータ」へと移行し,そしてPCによるデータ処理,という流れがあります。
昔の本には,ペンレコーダで出力したクロマトグラムをはさみで切り取ってその紙の重さから物質の定量をするなんていう,今では考えられない手法が書いてあったりします。こんな時代もつい20数年前にはあったのです。その後インテグレータが登場すると,ピーク高さや面積が出力できて定量がずいぶん楽になりました。
インテグレータは,基本的にアナログ入力信号をディジタル信号に変換(A/D変換)して数値処理をおこなっていますから原理的にはPCと同じようなものですが,クロマトグラムのレポーティングや保存,そしてLCシステム制御という点においてPCに分があります。もっとも個人的には,フロッピーやプリンタ,キーボードもついたオールインワンタイプでしかもBASICインタプリタが組み込まれているインテグレータには,その簡便さと自由度と価格にPCとは違う魅力を感じています。
この20年,特にここ数年のPC性能の驚異的な進歩によって,データ処理速度も飛躍的に向上しました。筆者の体験では,10年数年前に米国製の多波長検出器に付属するPCとして初めて米国製IBM−PC互換機を操作しましたが,当時のOSはMS−DOSでありさらにグラフィック環境が良好でないこともあって,三次元のクロマトグラム1画面の表示に数十秒,1分析にフロッピーディスク1枚が必要でした。
現在はリアルタイムにスキャンデータが表示できたり,あり余るほどのハードディスク容量など,高性能PCのおかげで多波長検出器の実用性が格段に向上したと思います。またLC−MSの制御やデータ処理においても同様に,今後ますますPCの果たす役割が重要になってくると考えられます。
データのマネジメントが大切な時代です。この点,LCメーカーのデータ構造に統一性がないことはたいへん残念なことです。米国で策定されたAIAフォーマットはありますが,世界的に統一されたという話をまだ聞きません。ユーザー側でデータ変換するなら,各メーカーのデータフォーマットを統一的に管理することができる,というレベルでしょうか。LCコンポーネントの制御やデータ転送方式,コネクタなど,装置メーカー各社の思惑と歴史があるので,完全に統一するというのはなかなか難しいのでしょう。
ポンプはA社,検出器はB社,データ処理装置はC社,というように,各社の良いところを組み合わせて自分好みのLCシステムを作りたいという希望は,筆者だけでしょうか。
PCはIBM仕様がデファクトスタンダードになりましたが,LCの世界ではたいへん難しそうです。
(矢澤 到)