カラムのコラム (Columns for Columns)

 

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ポリメリック / モノメリック ODSの誤解

2002-03-15

カラムメーカーのカタログには,ODSの結合様式として「モノメリック」とか「ポリメリック」という表現が用いられています。ODS充てん剤を合成するときに用いるODSシリル化剤は基本的に3種類 (単官能[Monofunctional],二官能[Difunctional],三官能[Trifunctional] ) がありますが,これらがシリカ基材にどのように結合しているかを表すものとして,最近多くのカラムメーカーが「モノメリック」とか「ポリメリック」という技術用語を使うようになりました。

本稿で問題としたいのは,多官能オクタデシル基が結合しているとき,すべて「ポリメリック」と表現してもよいのか,ということです。多くのカラムメーカーが「多官能=ポリメリック」というイメージをユーザーに与えてしまっているように感じられるのです。それ以上に多官能シリル化剤の性質をあまり深く理解しないままに表現しているような気すらするのです。

元来「ポリメリック(Polymeric)」というのは,多官能(二官能や三官能)シリル化剤どうしが重合してオリゴマーとなり,シリカ基材に高密度なオクタデシル層を作るような表面構造のことを表しています。反対に「モノメリック(Monomeric)」というのは,シリル化剤がシリカ基材上のシラノール基と1対1で結合している,ODS密度のあまり高くない構造のことを表しています。

三官能ODSシリル化剤を用いたとき,必ずしもすべてがポリメリックになるわけではありません。シリル化剤どうしが重合するような条件で合成すればポリメリックなODS表面になりますが,できるだけ重合しないような条件であればモノメリック構造をとることもあります。したがって「多官能シリル化剤を使ったからポリメリックなODSである」というのは必ずしも正しい表現ではありません。「多官能=ポリファンショナル」と「多層=ポリメリック」とは表面構造が異なる場合があるのです。

この20年近く,モノファンクショナル(一官能)なシリル化剤によるモノメリック(単層)な固定相がODSカラムの世界では主流でした。メーカー側からすれば「作りやすい充てん剤」だからです。しかしモノファンクショナルODSにはいろいろと難点があることも事実で,理想的なODSカラムと言い切ることはできません。この点,多官能シリル化剤を用いた合成にはかなりの技術を必要としますが,分解能が高くて耐酸・耐アルカリ性に優れたODSカラムができる多くの利点があります。

ODSカラムは数多く存在しますが,その結合様式はブランドによってまちまちであり,カラムの分離特性にも個性が現れます。カラムメーカーとしては,作りやすいODSを作るだけでなく,いろいろな表面構造を再現性良く提供できるような充てん剤合成技術をもっと磨かなくてはなりません。

( 矢澤  到, YAZAWA Itaru )