カラムのコラム (Columns for Columns)

 

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シリカと畳の関係 -- 面積について --

2002/05/08

 
ウサギ小屋。日本の住宅事情をあらわす,悲しくも的を得た表現と思います。
しかし,たとえウサギ小屋であったとしても,日本の住宅には世界に誇れるすばらしいものがあります。畳です。
高温多湿で四季の変化の大きな日本では,防湿や保温のために,多孔質材料を用いた敷物が必要だったのでしょう。また土足で上がらないため,埃などが屋内に入り込まないクリーンな環境づくりに貢献しています。


畳は平安時代に生まれた,日本固有の敷物で,昔は階級によってその大きさや厚さ,縁の色などが違っていたそうです。
現在の畳の大きさは,明治時代以降に決まったということで,調べてみたら以下のようないくつかの規格がありました。

■本間間(ほんけんま),京間(きょうま)・・・幅955mm, 長さ1,910mm
おもに近畿以西で使われている規格のようです。

■三六間(さぶろくま)・・・幅910mm,長さ1,820mm
おもに中京地方で使用されているそうです。

■五八間(ごはちま),関東間(かんとうま),江戸間,田舎間・・・幅880mm,長さ1,760mm
おもに静岡県以東で使用されているそうです。

■五六間(ごろくま),団地間(だんちま)・・・幅850mm,長さ1,700mm
おもに集合住宅で使用されているようです。

ちなみに畳の一般的な厚さは約5.5 cm,重さは材質によりますが1枚あたり20-30 kg程度です。
それぞれの規格によって面積が異なりますから,同じ四畳半でも住んでいる地方によってはずいぶんと広さが違うことになります。

HPLCカラムに使われている多孔性シリカも製品によって表面積が異なります。
多孔性シリカの表面積の表し方に「比表面積」という用語があります。1gのシリカが有する表面積を示しています。汎用ODS充てん剤の場合の比表面積は,300-400 m2/gです。ちなみに細孔径は10-15nmが一般的です。このあたりのスペックが低分子化合物の保持・分離特性を考えたときに性能を発揮しやすい,というのが理由と考えられます。

一般的な内径4.6mm長さ150mmのカラムには約1.5gの充てん剤が充てんされています。いま比表面積を300m2/gと仮定すると,1本のカラムの中には450m2の表面積が存在します。このシリカ表面を一面に広げるとすると,10m x 45mの広大な広さになります。

ここで前述の畳が登場します。
畳の規格でいちばん大きな,京間(1mx2m = 2 m2と仮定)で計算してみます。シリカの表面積450 m2を畳の面積 2 m2で割ると,450/2= 225畳。なんと225畳の大宴会場に匹敵する広さが,たった1本のカラムの中に存在しています。住宅で例えるなら,8畳間が28部屋あることになります。さらに坪数でいえば,136坪の大邸宅です。

驚くべきことは,たった数分のあいだに,カラムに注入された試料すべてがこの広大な表面を通過することです。しかも溶質分子と固定相分子のあいだの分子間相互作用が全表面で短時間にはたらいていることです。もしこの作用にばらつきがあれば,結果としてのピーク形状が悪くなってしまいます。したがって良好なピーク形状を得るためには,この広大な表面と分子レベルの格闘をしなければなりません。

固定相設計にかかわる者としては,表面処理方法にはいつも悩まされます。この課題を克服することが先端的カラムを提供することにつながるからです。
幸いにも日本のカラムは,メーカーの切磋琢磨により,表面処理では世界の先端を走っています。ウサギ小屋には住んでいますが,畳だけでなく,カラムブランドでも世界に誇れるような日本でありたいと思います。

(矢澤  到)