2002/10/01
今年(2002)の夏,温泉の利用者がレジオネラ菌に感染して死亡したという報道がありました。近年の温泉ブームに水を注すようなショッキングな出来事でした。 レジオネラ菌(Legionella pneumonphila)は,グラム陰性の土壌細菌で泥や川に分布しています。感染性はあまり強くないらしいのですが,高齢者や乳幼児など抵抗力が小さい場合に発症することがあるようです。肺炎の症状が風邪と間違えやすいために,治療が遅れてしまうことも病気を重くする原因となっているようです。通常の肺炎治療薬であるペニシリン系の抗生物質は効果がなく,マクロライド系が有効とされています。 レジオネラ症は以前から在郷軍人病として,家庭の循環式浴槽やビルのクーリングタワーの衛生環境が原因で発症することがありました。現在では紫外線やオゾン殺菌などに防止策もいろいろと開発されていることから,各地の温泉でもきっと対策が施されていて,今後は安心して入浴できることと思います。 ところで温泉といえばその有効成分も興味あるところです。腰痛やリューマチに効くなど,湯治客が利用するのも古くから経験的に薬効があるとされてきたからです。 温泉の成分や含有量は各地の温泉で異なりますが,全国10数カ所を調べたところ,だいたい以下のような種類と値になりました。
32 - 156 4 - 344 0.4 - 349 0.2 - 7
地中深くからわき上がる温水には,普通の地下水とは異なり,塩化物や炭酸塩が多く含まれています。また硫化水素などの含硫化合物は,温泉が火山活動に関係が深いことを示しています。これらの成分の組み合わせは温泉によってまちまちであり,それが温泉ごとに薬効が違う理由になっていると考えられます。 この中で意外に多い成分がメタ珪酸( H2SiO3 )です。これは親水性の構造ですから水に溶けていますが,重合させれば充てん剤としてのシリカと同じような構造にもなります。もともとシリカは地殻の成分から作られているため,温泉の成分と共通していても不思議ではありません。 何気なく浸かっている温泉とHPLCカラムがこのようにつながっていることは,たいへん妙な感じもします。いずれにせよ,我々の星が与えてくれた贈り物である温泉やシリカを,レジオネラ菌や金属不純物で「汚染」させないことがどちらにも言えることです。 筆者の住む京都から山陰線で2時間ほど,志賀直哉「城の崎にて」で有名な城崎温泉(兵庫県城崎郡)があります。ビジネスが落ち着いたら一度ゆっくりと温泉気分を味わいたいと思います。・・・と考えるようになったのは,歳のせいでしょうか。 (矢澤 到)