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セミミクロカラムにすると理論段数が向上するのでしょうか |
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前稿では「セミミクロカラムにしても濃度感度は上がらない」ということを述べました。本稿では「セミミクロカラムにしても理論段数は上がらない」,つまり「セミミクロカラムにしてもピークがシャープになるわけではない」ということを述べたいと思います。 20年ほど前になりますが,ある最高学府の先生から「セミミクロカラムにすると分離性能が上がるから細いカラムを提供して欲しい」と頼まれたことがあり,否定するのにかなり苦労した記憶があります。 カラム設計したことのない人が想像で語ることの多いのがこの世界です。私もかつてはHPLCユーザーでしたから断言できますが,カラムは作って(しかも売って)いる人にしかわからないことがあります。新規充てん剤を開発しただけではカラムを作ったことにはなりません。 「内径を細くするとピークがシャープになる」という誤解は以下の理由によるものです。 内径0.13mmのような細いHPLC配管を通じて溶質がカラムに入った瞬間,「物質拡散」が生じます。カラム内径が細いほど中心からの到達距離(時間)は短くなります。そのため内径の小さな(断面積の小さな)細いカラムの方が拡散が小さく理論段数が向上する,という考え方です。 この考えのどこに間違いがあるか,エンプティカラムまで設計したことのない人にはわからないかもしれません。 答えは「ディストリビューター (distributor) の存在」です。 拡散速度が極めて高い気体を扱うガスクロマトグラフィー (GC) のカラムでは必要としないような構造がHPLCカラムにはあるのです。
HPLCカラムへの試料注入は「点注入」ではなく「面注入」です。 HPLCカラムが「点注入」の場合,とても見るのがつらいテーリング形状になります。ガウス分布に近いピーク形状は「面注入」によって得られるのです。 カラム断面に拡散した溶質分子はそれぞれの場所において「物質拡散」が始まります。したがって拡散速度はカラム断面全体で平均化されるため,ピークのシャープさは内径の違いに影響を受けません。 ちなみにディストリビューターの構造は,一般的に分析用が円錐形のくぼみ,分取用は「分散板」という細い溝がつながった多数の穴を有する樹脂板,という構造体がフリットの前に配置されています。 以上が「理論段数はカラム内径には関係しない」という説明です。が,実際には理論どおりにはいきません。物質拡散はカラム内だけではないからです。流量などの分析条件も拡散に影響します。 HPLC装置環境に関しては,溶質が通過するすべての流路で拡散が生じます。以下溶質の拡散に関係する場所を列挙します。 1) 試料注入装置 試料ループやスイッチングバルブ内流路で拡散が生じます 2) 注入装置からカラムまでの配管 配管の内径と長さが大きいほど拡散が大きくなります 3) カラムから検出器までの配管 配管の内径と長さが大きいほど拡散が大きくなります 4) 光学検出器のフローセル容量 フローセルの容量が大きいほどセル内における拡散が大きくなります このように装置環境が物質拡散に与える影響は小さくはありません。カラム内径だけ小さくすると,装置側の拡散が相対的に大きくなってしまいます。本来であればカラム体積を1/5にするのであればHPLC装置も1/5にダウンサイジングする必要がありますが,現実的には困難です。 仮にHPLC装置がセミミクロ仕様であったとしても,同一環境では内径が小さくなるとカラム性能は低下します。以下にその実験例を示します。 図のようにカラム長と理論段数は比例します。もし比例しないようであれば,それはカラム充てん技術が不完全ということになります。この図からわかるように同一HPLC装置を用いた場合,内径が大きな方が理論段数は高くなります。これは上述のように装置環境による拡散の影響が内径が小さいカラム(低流量)ほど受けやすくなるためです。これが一般的なセミミクロHPLCによるセミミクロカラムの性能の現実です。 セミミクロシステムはカラム性能を向上させることはありませんが,流量低下による省溶媒にはなります。昨今の環境負荷を考えると省溶媒は重要な課題です。 そこで妥協点として3mm内径カラムがあります。特長は溶媒消費量が4.6mmカラムの半分でカラム性能は2mmカラムよりも高いことです。私は20年数年前にビジネスを立ち上げたときから「4.6mmカラムの次に来るサイズは2mmやミクロカラムではなく3mmカラムである」と考えてきました。 残念なことにHPLC装置がダウンサイジングよりも高額な高耐圧の方向に向かってしまいました。3mm内径カラムを用いた安価なHPLCの普及はまだ先になりそうです。 |
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矢澤 到 / YAZAWA Itaru ( インタクト / IMTAKT ) |