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セミミクロカラムにすると感度が向上するのでしょうか |
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「セミミクロ」ブームというのが1990年ころに起きました。HPLC装置としては配管やフローセルの容量を小さくする,カラムとしては内径を4.6mmから2mmにする,というものです。 当時大手メーカーが大々的に主張したのは「セミミクロにすると感度が高くなる」ということです。有名企業ですから誰も疑うことなくブームは広がっていきました。そのときライバルメーカーにいた私の反論は,圧倒的な企業規模の違いによりほぼ受け入れられませんでした。 ところがその大企業は最近になって突然HPLC業界から撤退してしまいました。業界への影響力が大きな会社であり,切磋琢磨していた身としては肩透かしを食らった感がありました。悲しいかな大企業におけるノンコア事業の末路とはそういうものかもしれません。 「感度が向上する」と主張する人たちの実験は必ず以下の条件によるものです。 「同一の装置環境で,4.6mm内径カラムと2mm内径カラムへの試料注入量が同じ」
結果として2mmカラムのピーク高さは4.6mmよりも高く,これが「セミミクロカラムは感度が高い」根拠となっています。しかしこれはサイエンスではありません。 分取カラムが典型であるように,試料注入量はカラム断面積に比例します。これは流量設定と同じです。 2mm内径カラムの断面積はは4.6mmの約1/5ですから,流量も注入量も1/5にする必要があります。そうすると保持時間とピーク高さはほぼ同じになります。これがセミミクロカラムの現実なのです。 過負荷にならないレベルであればたしかに注入量を上げていくことができます。しかしこれを逆手にとり2mm内径の相対的注入量を上げて「感度が高い」とすることはフェアではありません。4.6mm内径カラムでも5倍量注入すれば同じ感度が得られるからです。 同一試料の場合,注入容量とカラム断面積には比例関係があります。分取作業においては「負荷量」が大事で,最終的に分離ピークが何g分画できるか,ということが重要になります。カラム内径を無視して注入量だけを上げていくと「過負荷」になりピーク形状が非常に悪くなります。カラム内径と注入量には密接な関係があるのです。 最近開発したカラムへの負荷量計算プログラムを以下に示します。メソッド開発におけるカラム内径選定の一助になるかと思います。 注入量がカラム断面積に比例している場合,ピーク感度は試料濃度に依存します。これを「濃度感度」といいます。つまり同一試料の場合では理論上,カラム内径の違いで濃度感度が変わることはありません。 一方で注入試料液量が限られていて多量の注入ができない場合は,カラムの内径が小さくなるほどカラムに導入される溶質質量が相対的に増えてピーク高さ(感度)が上がることから,カラム内径が影響を与えることがあります(「質量感度」の向上)。ミクロ/ナノ LC がその例です。ただしこれにはやはり「注入量が過負荷にならない」という大前提があります。このため小口径カラムの場合は,負荷量が飽和しやすいアイソクラティック溶出に替わって試料濃縮効果の高いグラジエント溶出が好まれるわけです。 セミミクロシステムには前述のフローセルのように,ハードウエア設計としての難しさが伴います。「カラム外拡散」を抑えるために,配管だけでなくオートサンプラーのニードルも細く流路も短くする必要があります。また試料スイッチングバルブの穴も小さくしなければなりません。また試料は通過しないけれど,低流量で安定送液できるプランジャーやそれを駆動させるパルスモーターやカムの精度も高めねばなりません。 カラム設計でも難しさがあります。内径が小さくなるほど内壁の影響が出やすくなりまた内径精度も重要になります。充てん剤が外部にこぼれないように抑えるフリットの体積も溶質拡散の悪影響となります。ディストリビューターの体積や穴径の微小化も必要です。何より高性能を維持するための充てん技術が難しくなります。 内径が小さくなるほど分離性能の確保が難しくなります。20数年前にカラムビジネスを始めた私のひとつの目標としては「3mm内径カラムの普及促進」でした。2mm内径よりも流量は2倍ほど必要ですが,取り扱いがしやすくてカラム性能も高くなるメリットがあります。また移動相消費量も4.6mm内径カラムに比べて半分になります。当社のLC-MSアプリケーションで3mm内径カラムが多用されているのはこの理由からです。 3mm内径カラムのメリットは 次稿 で述べたいと思います。 |
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矢澤 到 / YAZAWA Itaru ( インタクト / IMTAKT ) |