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HPLCカラムの劣化(寿命)の原因


HPLCカラムの寿命は一定ではありません。使用方法や分析条件によってカラム劣化の速度が異なるからです。

カラム寿命に関しては、医薬品探索研究の24時間連続運転で約1週間、月に数回の品質分析では約10年、という極端な事例もあります。1本のカラムで可能な繰り返し分析は一般的には数百回が妥当なところです。
数回から数十回の分析でカラムが劣化するのはメソッドの最適化ができていないと判断すべきです。分子間相互作用が考慮されておらず再現性に乏しい分析条件であったり、カラムに負荷のかかる分析条件である可能性が考えられます。

カラム劣化に影響を与えやすい要因について以下に述べます。

1.  流量による影響
カラム断面に対して高流量、つまり線速度を上げた高速分析ではカラムの軸方向の差圧が大きくなります。この大きな差圧が継続すると充てん剤粒子に負荷がかかり、カラム内で粒子が移動する結果、カラム入口に隙間(ボイド)が発生してピーク形状が悪化します。ハイスループット(高流量)分析をする場合はカラム寿命が短くなる覚悟が必要です。

2. 移動相組成による影響
カラムにとって好ましくない移動相組成はカラム寿命を短くします。一般的なシリカ系カラムの場合はpHが最もカラム劣化に影響を与えます。
pH 2以下の移動相は酸加水分解によるリガンドの脱離が生じ保持が短くなります。
pH 7を超える移動相はシリカ基材そのものを加水分解するため、カラム内からシリカ粒子が消失してピーク割れが生じます。

移動相pH が適切な範囲であっても、有機溶媒と親和性に乏しいリン酸塩などの無機塩が高濃度に存在するとカラム内で塩類が析出して充てん剤を傷めることになります。有機溶媒で析出しない有機性塩類(酢酸アンモニウムやギ酸アンモニウム)の使用が望まれます。

移動相の粘度が高いとカラム圧力が上昇して充てん剤にストレスがかかります。この場合は流量を下げるか、カラム温度をたとえば50℃に上げて圧力を低下させることが望まれます。

ODS固定相の場合、移動相の水比率が高い(たとえば100%)とODSリガンドが水の疎油効果により排除されて、有効な分離場が少なくなり保持の急激な低下とともに、リガンド収縮に起因する充てん剤粒子の収縮と移動によりボイドの発生につながります。ODSカラムで水100%系移動相はカラム寿命に影響を与えます。この場合は高濃度有機溶媒による順相モードが推奨されます。

3. 試料注入による影響
試料溶液中に不溶性粒子が混在している場合、これがカラム入口に堆積してカラム圧力を上昇させカラム劣化につながります。その防止策としてのガードカラムを接続してもカラム圧力は上昇します。問題なのはガードカラムの交換頻度を把握しないで繰り返し注入すると、いずれ分析カラムにも不溶性粒子が混入し分析カラムも失うことになります。「ガードカラムをつけたから大丈夫」ではなく、注入試料溶液から不溶性粒子を除去する「前処理」を考慮すべきです。

試料濃度と注入容量もカラム寿命に影響します。高濃度試料を大量に注入するとその粘度のためにカラム入口に大きな負荷がかかりボイドの原因となります。カラム寿命のためには試料濃度、特に溶媒を含めた試料粘度に留意が必要です。

またきれいな試料であっても注入の回数だけカラムにはストレスがかかります。ループインジェクターの場合、試料ループに大気圧注入したあと流路切替すると急激な加圧が生じるため、カラム入口にこの圧力変動が伝播します。繰り返し注入による圧力変動の繰り返しはカラム入口の充てん剤配列を徐々に変化させます。そして最終的にはピーク形状の変化につながります。この注入時の圧力変動の大きさは試料溶媒のほか流量や移動相組成、さらには注入装置の設計構造にも影響されます。

4. カラム温度による影響
シリカ表面に結合した有機固定相には加水分解の懸念があります。これは高温で加速します。たとえば80℃でタンパク質の逆相分離をおこなうとリガンドの加水分解が生じやすくなります。温度はピーク形状の改善に重要な要素ですから、高温分析とカラム寿命のトレードオフへの配慮が必要です。

5.  溶出条件による影響
HPLCでは「アイソクラティック溶出」が標準のように扱われますが、GCで「昇温分析」が当たり前と同様にHPLCでも「グラジエント溶出」が基本と考えるべきです。アイソクラティック分析はODSのように溶質-固定相間の相互作用が弱い場合に可能であって、pHやイオン強度の配慮が必要なイオン性物質をアイソクラティックで安定分析することは困難です。繰り返し注入により固定相に不純物が堆積したり、加水分解などのリガンドの変化によって保持に影響を与える結果「カラムが劣化した」と判断されるケースが多々あります。この分析法は「堅牢性」に乏しいものであり、カラムの耐久性を期待するよりも堅牢な分析法を検討すべきと考えられます。


カラム劣化に関して確実に言えることは、HPLCカラムの性能はメーカー出荷時が最も高く、分析や洗浄作業で劣化するだけでなく、医薬品同様に購入後未使用であっても劣化します。カラム購入後はできるだけ速やかに使用することが望まれます。


[参考資料]
HPLCカラム劣化を判断する方法


XH23-XL25 / 矢澤  到 [YAZAWA Itaru, hplc@imtakt.com]

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